2023年5月19日更新
コロナのパンデミックが始まった当初、その毒性は結構厳しいとか感染力も馬鹿にならないと言われていました。確かに、当初はしばしば比較対象となるインフルエンザと比べても重症化しやすかったし、感染力もそれなりだったというのが今振り返ればの結論ですが、その推測は正しかったと言えます。感染力もそれなり、毒性は強い、となれば過去のパンデミックがそうであったように多くの人がその犠牲になるというシナリオに違和感はないですから、当然パンデミックが収まるまでは例年以上に死亡者数が増えるであろうことは誰しも懸念したところです。
毎年、日本でどれだけの人が亡くなっているかについては当然のことながら厚生労働省が数字を提供しています。まずはその数字を見ていただきます。表1がそれです。数字としては戦後の1947年から確認していますが、戦後の混乱期は避けていわゆる高度成長期の成熟期といえる1970年(昭和45年:大阪万博の年)からのデータを示しています。各年の死者数と前年比の増減ですが、このように数字を並べられるとちょっと何が?って感じますよね。
そこで、これをグラフ化したものが次の図1で、毎年の死者数を棒グラフにしたものです。日本の超高齢化社会を反映して1990年代から死者数は長期に右肩上がりとなっています。
次に毎年の変化をわかりやすく折れ線グラフで示したのが図2です。死者数の長期増加傾向が明らかとなった1990年代以降を示しています。これを見るとよくわかりますが、時々、前年比で死亡者数がドンと増加する年があります。その明確な理由があるのが1995年と2011年、2つの大震災の年です。一般論ですが、前年比で死亡者数が激増する原因ではっきりしているのが戦争、大災害と感染症のパンデミックです。
ただ、大きく増加した年の翌年は特に大きなイベントがなければおおむね低下しています。そこで問題となるのがこの新型コロナによるパンデミックですが、緊急事態宣言が出たのが2020年、その影響が出たのか2021年はドンと増加、まあここまではパンデミックだったので想定内。でも、昨年2022年はこれまでの最高の死亡者数で絶対数で2倍以上にジャンプアップしており、過去最高を更新しました。この原因は今のところ明確ではありませんし、わからないがゆえに様々な憶測を呼んでいます。
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コロナが5類になり、ようやくパンデミックの終わりがみえてきました。海外ではマスクはなしで、ほぼほぼ元の日常になっています。日本でも大阪や神戸では外国人の旅行者が戻ってきましたし、国際線での収益が命だったANAも2022年度は大きく黒字に回復したように思われます。そんな状況にもかかわらず、よくわからないが日本の死亡者数が前年比でかなり増加しているのです。推理小説ではないですが、コロナに隠れて、もしかしたら私たちが知らない謎のウイルスが蔓延しているのではないか、そんな想像も頭をよぎります。
この不可解な死亡者数の増加ですが、厚生労働省はもちろんのこと、一部の医学研究者や臨床医も把握しています。当然、いくつかの説明が提案されています。ネットや報道等で私が耳にしたものをあげますと。
① コロナの後遺症説
1つめはまさにこれこそがコロナの後遺症だという説です。コロナ感染で亡くなりはしなかったが、もともと持病のある方がその持病が悪くなってしまったためというものです。この説はある程度の説得力があるようには思えます。ただ、現時点では明確なデータはないと思います。今後、死亡者の解析が進むとコロナの後遺症がどの程度影響したかはある程度明らかになるでしょう。ただ、私個人としてはこの影響は否定しませんが、これだけで話がつくかなあ、なんとなく違うかなぁ、という印象ですがね。
② 団魂世代のコロナパンデミックによる死亡説
2つめはいわゆる団塊の世代の方々(終戦後すぐにお生まれになった方々で私より10ちょい上ですので本年で75~78歳)がそろそろお迎えが来ても不思議でないお歳になった、そこへコロナパンデミックで多くの方がお亡くなりになったという説。ただ、これはほぼほぼ否定的です。死亡者の数の増加は特定の年齢層に偏っていなかったからです。
③ コロナで受診を控えたことで病気が進行してしまった説
3つめはコロナパンデミックのため他の疾患で病院に行くことがためらわれた。その結果、例えば、癌がそうであるように初期に見つければ十分治療ができるはずのものがたくさん見過ごされてしまった、という説です。これはありだと思います。
外科医の「この頃初期のがんがあまりなくて、進行がんばかりなんだよ」という嘆きは最近耳にします。おそらく、現場はそんな印象なのだと思います。ただ、この嘆きが真実か否か、は時間が解決してくれるとしか今は言えません。ただ、これだけでこの死亡者数の増加を説明は難しいような、決定打とは言えないように私は思います。
④ コロナの影響による手術延期により病気が進行してしまった説
4つめは3つめと共通項があるのですが、パンデミックの時にすでにオペの予定が組まれていたのにコロナ優先の診療体制にあってオペが延期、そのため癌が進行してしまった。というもの。手術の延期は実際にあったことです。大阪府でデルタ株が猛威を振るい、人口では、はるかに多い東京都より、感染者数が絶対数で東京都を勝った(まさった)時期がありました。そんな事態になった原因は明らかで、大阪府の政策が結果として芳しくなかったのではと思われます(東京都が行動制限を厳しくしようとした時期に大阪府はこれを緩和しました。地域の事情があったのでしょう)。
その時の大阪府の某大病院院長から直接伺った話です。府から院内のICUをすべてコロナ用にするようにとの要請があったそうです。最初はそうするとがん患者のオペができなくなるので2床は残したいとの返事をすると、非協力病院としてマスコミに公表する、と言われやむなく全部をコロナにしたとのこと。コロナ患者も一人の命、がん患者も一人の命、これが理解してもらえない時期があったのです。これは普段なら当たり前の治療ができなかったという点で3つ目の説と共通項がありますので、死亡者の増加にいくばくかの影響は否定できません。
⑤ コロナワクチンが免疫系に与える影響説
5つめですが、これは私が一番恐れている説です。このひとりごとのリピータの方々はその話に持って行くのね、とお分かりになった方もおられるでしょう。この“ひとりごと9”で取り上げたコロナワクチンが免疫系に与える可能性です。かの“ひとりごと”では免疫系を抑制したため帯状疱疹が増えるかも、と書いたのですが、実はあの後2つの臨床研究が発表され、1つはアメリカからの報告で帯状疱疹は変わらない、もう1つ欧州からの報告で帯状疱疹が増えたというものでした。まだまだ結論には至りませんが、その可能性、つまりワクチンにより人の免疫系が抑制され、その結果癌の進行が早くなったりしたのではないかということ。そのため、初期でがんが見つかりにくくなったのかも、という懸念です。この真偽についてはこれからの課題ですが、その可能性が消えない限り、安易なワクチンはちょっと、と思いますね。
死亡者の数が増えていることは事実ですが、その理由を明確に説明できることは現状ではできません。しかし将来、様々な解析がなされるでしょう。今年の死亡者数がどう推移するか注目しています。厚生労働省のホームページで随時公表されるはずです。ちなみに今年3月の速報値は通常5月の下旬に発表されます。
さてこの傾向ですが、日本特有ではありません。今年の初めに世界で一番の科学雑誌であるNatureにWHO(世界保健機構:事務長はかのロドリゲスさん)からの報告で世界でも2020~2021年例年より死亡者数が増えているとのことです。そして、詳しく言うと長くなりますので簡潔に言います。コロナによる死亡者数のおおむね3倍数の死亡者の増加があったとのことです。コロナによる死亡とそうでない死亡のすみわけが万国共通ではない点は致し方ないですが、少なくともコロナだけではない死亡数の増加は日本もしかり、世界もしかり、ということで、当然のことながら、世界的な解析もされていくものと思います。