2022年4月20日更新
今回は少し時間をあけました。4月と言えば新たなスタッフを迎える月です。それに伴い病院の広報担当はてんてこ舞いになります。そのてんてこ舞いが少し落ち着いてからと思いまして、少し遅れての“ひとりごと”です。
日本中というより世界中が新型コロナにふりまわされて3年以上の歳月が経ちました。諸外国より遅れてではありますが、日本においてもウイルスへの警戒が緩められ、ゴールデンウィーク明けに新型コロナウイルスが現状の2類相当から5類に引き下げられます。一番なじみのある所では、季節性インフルエンザと同列に扱われることになり、私たちの生活にも少なからず影響が出ることはまちがいないところです。ただ、新型コロナウイルスがこれを機にインフルエンザみたいなものに変わるわけではなく、あくまで行政における取り扱いが変わるだけで、ウイルスは相変わらずの変異を繰り返しているはずです。今後も新たに感染力が強くなった新型コロナウイルスの変異株が出現する可能性を否定するものではありません。
まずは復習からで、厚労省のホームページから感染症の分類を引用したのが表1です。あまりなじみのない病気は割愛しましたが、感染症は1~5類に分類されます。感染症の中にはこの分類に含まれないものもたくさんありますので、言い換えればこの分類に該当する感染症は要注意であるということです。
1類の感染症は見てのとおり、これまでの人類の歴史の中で多くの人命を奪ってきた怖い感染症が並んでいます。1から5という分類から単純に考えれば2類、3類となるにつれ感染症の重症度が下がっていく、ということになりそうですが、もしそうなら新型コロナは今まで2類相当から5類へ一気に3段階下がることになりますので、その違和感は誰もが感じるところではないでしょうか。ただ、実際の分類は単純な重症度分類ではなく、3類に分類されているものはいわゆる食中毒を引き起こす感染症であり、第4類は表の“分類の考え方”にあるとおり、動物を介する感染症がこれにあたります。従って2類から一段階落とすと5類に落ち着いてしまうのです。
さて、今後新型コロナが再度大きな感染の波が来るかどうかについては専門家の意見も一致しているとは言えませんが、おおむねオミクロンのような大きな波が来ることはなかろう、という意見が優勢のように思えます。世界が現代のようにグローバル化したあとにこれほどのパンデミックの経験はありません。ですから、過去のデータのように根拠となるものもありません。様々な数字から推察し、何らかの結論を引き出すわけですので、専門家といっても各位の様々な考え方や時には思惑もあります。よって、画一的な結論にならなくて当然と言えます。
今後の新型コロナの成り行きを推察するうえで、よく言われる言葉に”集団免疫“があります。話としてはシンプルです。とある感染症に罹ると免疫が得られますが、より多くの方が免疫を得ることである人がその感染症になったとしても周りにいる人が免疫を持っていればそれ以上に感染が拡大することはない、つまりこれまでのようにパンデミックが起こることはないというものです。話としてはわかりやすいのですが、問題はどこまで感染が広がり、免疫を持つ人が増えれば集団免疫が成り立つのか、という具体的な数字です。
新型コロナが出てきた当時、いわゆる武漢株のころはおおむね65 %程度と推察されていたようです。つまり、3人のうち2人が感染すればこの感染症は収まるというわけだったのです。ここは過去形です。この集団免疫ですが、どの感染症でも同じ数字とはなりません。ウイルスや細菌の感染力が強くなると、当然の成り行きで周りの感染も広がりやすくなるため、この数字(%)は増えます。昔から感染力が強いとされていた感染症としては麻疹や水疱瘡が挙げられますが、この2つについては90%以上でないと集団免疫が成り立たないとのことです。新型コロナも変異を繰り返すことでその感染力が上昇し、アルファ株では80%弱、デルタ株では80%後半と推察されています。オミクロン株に至ってはさらに感染力が上昇していますので、麻疹や水疱瘡レベルの90%に達していても不思議ではありません。つまり、10人のうち9人が感染しないと収まらないというのが理論上のハードルとなります。
![]() |
では、現状、日本での感染状況のおさらいです。リアルタイムでの数字は難しいですが、ある程度の期間を定めてその時点で日本人がどれくらい新型コロナに感染したか、についてはそれなりの調査があります。日本赤十字社が2月19日から27日に献血された血液の残ったもの(13,121人)を調査した結果ですが、コロナに対する抗体保有率が42.3%だったとのこと、概算ですが、日本の人口から換算すると約5,200万人が抗体を持っている、つまり感染をしていたというものです。その当時の実際に公表された感染者の数は約3,300万人でしたので、ほぼ2,000万人が感染したが、本人は気がついていなかったということになります。この数字はあくまで今年の2月の終わりごろの話ですので、現在までにはまた数字がいくらかは上乗せされているものと思います。これに加えて、ワクチンを接種した人が7,000万人くらいです。当然ワクチン接種者と抗体を持っている人とはいくらかは重なっているはずですが、実際どれくらい重なっているのかについては残念ながらわかりません。そのため、現状、集団免疫が成り立つ90%レベルに達しているかどうかの確信には至りませんが、かなりの高い確率でそのあたりまでは来ているという推測はできると思われます。行政にとってもこれらの数字も後押ししての5類への移行ではなかったかと察しています。
ここまでは日本全体での話ですが、次に八鹿病院という小さな地域での数字です。病院の職員数は現状574人、4月7日、現在までの職員の新型コロナ感染者数は200人(本院感染対策委員会の数字です)です。上にあげた全国の数字をそのまま応用すれば、感染者3に対して抗体を有する人はおおよそ5ということになりますので、八鹿病院で抗体を有する、つまり症状の有無にかかわらず感染したと考えられる職員の数は330人程度と推察されます。つまり、全職員の60%弱が抗体を持っているという現状が予測されます。これは全国レベルをいくらか上回る数字です。と言うと八鹿病院の職員は全国レベルより新型コロナの感染率が高かったということですよね。「そりゃ医療者としてけしからんなぁ、もうちょっときちんとしてもらわんと困る」とお叱りが来るかもしれませんね。確かに数字を見れば高いですが、コロナ患者や発熱の患者さんとの接触が避けられない業務形態が背景にありますので、医療関係者のコロナ感染率はおそらく一般の皆様より高まることは容易に想像できます。その点をご配慮いただければありがたいと思います。実際、各医療機関において院内のパンデミックが起こったりすればホームページに掲載されますが、画一的に職員の感染率がどれくらいなのかについては公表されていないと思われますし、各病院に問い合わせても答えてくれるか怪しいものです。
さて、この八鹿病院の感染者の数字ですが、実はちょっとすごい数字が隠れているのです。確かにこれまでの感染者数は200人ですが、実は最初の八鹿病院職員の感染者は昨年(令和4年)の1月でした。つまりそれまで(おおむねデルタ株まで)は一人の感染者も出さずにやってきたということなんです。これは職員各位の努力の賜物と自画自賛したいところです。変異株にオミクロンが登場しはじめた頃から感染経路として家庭内感染が主流になって、職員の感染者も増えてしまいました。病院職員はほぼほぼワクチン接種を受けていたはずですが、オミクロン株では十分な歯止めとはならなかったのですね。さらにはオミクロン以前に感染した人がいなかったということはしかるべき抗体を有していなかったと推察されますのでオミクロン株の餌食になりやすかった。それが結果として感染者を増やしてしまった一因だったかもしれません。
次に5類以降の八鹿病院の在り方を考えたいのですが、抗体の保有率は全国より高い、ワクチンはほぼほぼ職員全員が受けている、となれば全国レベルより集団免疫が出来上がっていると私は思っています。ですから、5類移行を受けて、病院内の制限を大幅に取り払ってもいいのではないかと思っています。まあ、これはあくまで私個人の意見ですし私は院内の感染対策委員会のメンバーでもありませんので、私の意見が病院の方向性に影響を与えることもないでしょう。当然、反論もあるはずです。「病院というところは患者さんには免疫弱者が多いので簡単に制限を取っ払うのは問題だ」とか、「もし、大幅に制限をなくしてクラスターが起きたらだれが責任取るんや」とかいろいろ出てくるでしょうね。世間が“ウィズコロナ”にほぼほぼ向いているなかで、病院がゼロコロナをやめて、いつそれに追従するのかは、どの医療機関も悩ましいところだと思います。一気にウィズコロナとはいかないでしょうからどのような段階を経ていくべきか、課題はまだまだです。でも、そろそろ潮時のような気がします。
最後に「5類になればマスクはどうなるのか?」は一番身近な課題ですが、そもそもマスクは自分を感染から守るための一つの手段です。マスクをするデメリットもありますので、各位が自分で決めていただくのが一番いいのではないかと思っています。
また、マスクに関しては自分の意見を他人に強制することもないようにすべきだと思います。