ひとりごと2)オミクロン株

麻酔科部長(副院長)のひとりごと


2022年1月11日更新
 

オミクロン株が日本に上陸しました。おそらく感染力が強いのは間違いないようで、すでに全国に広がりを見せています。但馬にやってくるのも時間の問題と思われます。オミクロン株は新型コロナウイルスの変異株の一つですが、”変異株ね、ハイハイ”と納得できる方は医療関係者か、そうでないなら相当勉強された方ではないかと思います。

この”ひとりごと”ですが、できるだけ医療ネタはその前提となる専門知識がなくても理解していただけることが肝要と思っていますので、今月はまず「ウイルスとは何か?」というところから始めたいと思います。



まずは、ウイルスを知ろう

感染症は主に細菌とウイルス(他には寄生虫などがあります)によってもたらされますが、この2つの生命体は全く違うものです。主な違いとして2つあげます。

まずは大きさです。細菌は長さが約1μmで、ウイルスはさらに小さく、細菌のほぼ50分の1で、10~100 nmの大きさです。
(単位の説明です。釈迦に説法かもしれませんが、m(メートル)は1/1000を示すので1mmは1mの1/1000、μ(マイクロ)は1/106を示し、n(ナノ)は1/109を示します。)
おおむね人の細胞は10μmですので、細菌やウイルスもそれより小さく、もちろん肉眼では見えません。細菌は普通の顕微鏡で見えますが、ウイルスは電子顕微鏡でようやく見える大きさです。

2つ目はその生き様です。細菌は単独で生存できますので主に細胞の外で繁殖し、それに伴い膿(うみ)が生じます。一方、ウイルスは単独での生存ができないので動物の細胞内に侵入して、その細胞内にある栄養素を略奪して生存、繁殖します。一般にウイルスに寄生される生物を宿主(ホストとも言います)といい、新型コロナではヒトが宿主です。ウイルスとは宿主の細胞の中に侵入する方法を身につけており、宿主の細胞がウイルスに栄養素を食べつくされて死んでしまうと、新たな細胞に侵入して繁殖するというサイクルで生き延びていきます。具体的にどんな病気が細菌または、ウイルスによるものかをいくつかご紹介します。
 

<細菌>
●結核を引き起こす結核菌
●食中毒の原因となるサルモネラ菌や病原性大腸菌
●梅毒の原因である梅毒トレポネーマなど

<ウイルス>これらはよく知られていると思います。
●インフルエンザ
●おたふくかぜ
●はしか
●風疹(3日はしか)など



新型コロナウイルスが人に感染するしくみ
図1. 新型コロナウイルスの断面模式図

次に新型コロナウイルスの容貌についてですが、これがなかなか重要です。電子顕微鏡の写真を見た方もおられると思いますが、その特徴を書いた断面模式図を図1に示します。あまりうまい絵でなく申し訳ありませんが、特徴はとらえていると思っています。(美術は苦手で中学ではいつも通知簿の評価が4か5でした。ちなみに私の中学は10段階評価。音楽は7か8でしたけど)。

ウイルスの遺伝情報を持つRNA(リボ核酸)はカプシドと呼ばれる殻に格納され、その表面をエンベロープ が覆っており、それは直径約100nmの球形です。その表面には多数の突起が見られます。この突起はスパイク蛋白と呼ばれていますが、これがなかなかの曲者で、細胞内に侵入する時に船の”碇(いかり)”のような役割を果たし、これが機能しないと細胞内に侵入できません。人の細胞の表面にはこのスパイク蛋白とくっつく、いわば桟橋のようなものがあることもわかっています。この碇と桟橋については新型コロナの流行の結構早い時期に突き止められていますが、これがワクチン開発の大きなポイントとなりました。今、私たちが接種しているワクチンはこのスパイク蛋白に対する抗体の産生を促し、新型コロナからの感染防御をしています。

※感染を防ぐ仕組みの一つとしてご紹介します



新型コロナウイルスは、平均2週間に1回変異する

ここまでが基礎知識でいよいよオミクロン株です。新型コロナウイルスは報道でよく言われていますが、変異しやすいウイルスです。生命体はアミノ酸がいくつにもつらなった蛋白質でできています。もちろんウイルスもヒトもそうです。その蛋白質の構成要素であるアミノ酸が別のアミノ酸に間違って変わってしまうことを変異と言います。ですから生体の構成要素のアミノ酸のたった一つでも変わると、それは”変異”なのです。新型コロナウイルスは平均2週間に1回、変異することがわかっています。最初のコロナウイルスからかれこれ2年たちます から、とてつもない数の変異株がこの世の中に存在している計算になりますが、その全てが問題となるわけではありません。たまたま変異した結果、感染力が強くなった、とか毒性が上がった、というような変異株が現れるとWHO(世界保健機関)は警告を発し、ギリシャ文字を使って順番に命名するのです。ですから、最初はアルファ株でした。ここまで話をすると呑み込みの早い方は次の話がわかるのではないかと思いますが、コロナウイルスのスパイク蛋白の一部が変異をすることで感染力が増強される可能性がありますし、ワクチンはもともとのウイルスのスパイク蛋白に対する抗体を作るものですから、そのスパイク蛋白が変わると抗体の効果が薄れる可能性が出てくるのです。



オミクロン株のはじまり~現状の見解

皆様ご存じの通り、オミクロン株は南アフリカで発生しましたが、もしかしたら他の地域でも発生している可能性も否定できません。感染力がデルタ株より強く、急激に患者数が増えた南アフリカが目立ってしまいました。南アフリカからの情報ですが、南アフリカも日本同様にデルタ株の大きな波が収まり、10月の最終週から11月の前半までは1日の患者数が500人を下回っていました。ちなみに南アフリカの人口は日本のほぼ半分ですので単純に補正すると日本では1000人以下になったというところでしょう。それが11月の第3週の半ばから新規患者が増加に転じ、11月の最後の週では1万人を越えるという急激な増加が続き、12月第2週には2万人を越え、ピークは12月12日の34875人でした。この急激な増加に関与したのが新たな変異株のオミクロン株だったことで世界の注目が集まりました。ただ、ピークの後は急激に患者数が減少し、12月の終わりから1月にかけては1万人前後で推移しています。このオミクロン株は南アフリカでの患者数の急激な増加にみられるように、これまでの変異株のなかでも感染力が強いことはほぼ一致した見解です。

また、オミクロン株の変異部位についても解析されており、スパイク蛋白のところに多くの変異があることがわかっています。ですから、感染力の増強に加え、ワクチンの効果が薄れることも懸念されています。ただ、これだけ南アフリカで感染爆発が起こった割にはコロナによる 死亡者はそれほど増えていません(誤解のないように補足しますが、少し死亡者数は増えていますが、感染者の増加に比べたら非常に少ないのです。その死亡者の中には以前、 流行したデルタ株によるものも いくらか含まれていると推察されますので、オミクロン株によるものは発表された死亡数より少ないと思われます)。この傾向はすでにオミクロン株が上陸した欧州でもみられており、感染力は強いが毒性はそれほどではない、というのが現状の見解と思われます。今後日本でもオミクロン株の感染が増えると思います。感染者数も重要ですが、重症化の数や死亡者数の推移がより重要になると思います。



ウイルスの弱毒化=コロナによる死亡者数が減る=ウィズコロナの時代?
令和2年人口動態統計の概況より一部抜粋し作成

ここで、厚生労働省が発表している各年の死因別死亡者数に注目です。
その中から抜粋ですが、令和元年と2年の死亡者数でインフルエンザは3575人・954人(元年・2年)。報道されていたようにコロナ禍で激減です。また、交通事故の死亡者は4279・3718人(元年・2年)とこれもコロナ禍で減っています。ついでと言っては語弊がありますが、コロナとは関係は薄いものの、これ以上に ちょっと驚く数字があります。それは自殺による死亡者数です。令和元年が19,425人、2年が20,243人です。少し増えています。この数字に日本の現状の問題点があるように思いますが、それは、またいずれ。ついでに他殺死亡は299人と251人でした。

話を戻しましょう。なぜこのような数字を出したかといいますとコロナがはやる前、毎年インフルエンザでは3,000人以上、交通事故では4,000人以上が亡くなられています。でも、インフルエンザで在宅勤務にはなら なかったですし、交通事故が怖くて“stay home”という話もありませんでした。つまり、これらの数字を我々日本人は生きていく上でのリスクとして当たり前に受け入れてきたはずです。オミクロン株がどれほどの毒性を有するかはまだわかりませんし、また新手の変異株も出ると思いますが、もし新型コロナウイルスが弱毒化し、それによる死亡者の数がこれらの数字を下回る時、まさにウイズコロナの時代になったと言えます。それもそんなに遠くないと思わせるのがオミクロン株の出現ではないかと考えている医師や研究者は私を含めて少なくないと思います(そうあってほしいです)。あともう少しの辛抱ですと言いたいんですがねえ。半年後に私がこのコーナーで“ごめんなさい、甘い見通しでした”とならないことを祈っています。



ウイルスの弱毒化は、ウイルス自身が存続するためにも好都合

さてさて、あまり楽観論ばかり書くと非難も入るかもしれませんので今月はこのあたりで…。
ただ、生物学の教えるところではウイルスは紆余曲折を経て弱毒化していきます。それはウイルスにとっても好都合なんです。なぜ好都合か?ウイルスは単独では生きられませんので宿主に寄生しますが、毒性が強くて宿主が死んでしまうとウイルスも殉死してしまいます。ウイルスが子孫を残すためには宿主を殺してはいけない、つまりウイルスの弱毒化はウイルス自身のためでもあるのです。

長くなりました。ここまで読んでいただきありがとうございました。



最後に、若者たちへ

でも、最後にしつこく追加。読者の中に高校生までの若い人いるかな?そのなかで医学って面白いと思った若人がいたら、迷わず医学部を目指してほしい。そんなの無理、と言っていけませんよ。これ以上は無理というくらいの努力なくして、自分で限界を決めるなんてナンセンスです。限界って決めるもんじゃなくて悟るもんですよ。

次回はこの勢いのまま、ワクチンの話をします。


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