ひとりごと6)体にいいこと、悪いこと

麻酔科部長(副院長)のひとりごと

2022年5月13日更新
 

昔から「体にいいことや体にいい食べ物は何か?」は興味が尽きない話題です。この話をしだすと次から次へといいことや悪いことがでてくるのですが、今回はその中から4つばかり最近の話題も引用して語らせていただきます。



睡眠は体にいいこと

“寝る子は育つ”と言いますが、子供が夜更かしなんかせずにしっかり睡眠時間を取ることは今も昔も変わらずいいことです。逆に、睡眠が足らないと体がだるくて、集中力に欠けて、仕事の効率も悪いというのは皆さんが肌で感じることだと思います。

睡眠は今でも医学的に重要な研究課題で、多くの研究が大人でも睡眠をしっかりとることは様々な恩恵があることが示されています。女性にとっては永遠の課題であるダイエットでも十分な睡眠時間の確保が体脂肪の減少を導くことが知られています。

ではどれだけ睡眠時間をとればいいのか?というのは素朴な疑問ですが、おおむね8時間くらいがいいようです。逆に睡眠不足が続くと、太りやすくなるとか糖尿病になりやすくなることも知られています。



昼寝の習慣とアルツハイマー型認知症の関係

じゃあ、とりあえず眠ることはいいことだということになりますが、今年、同じ睡眠でも昼寝をすることが高齢者ではアルツハイマー型認知症の発生を高めるというちょっとびっくりの研究が発表されました。
この研究は14年の長きにわたり対象となった高齢者を追跡するという壮大なもので、検証するにも長い年月が必要ですのでその真偽を私が生きているうちにわかるかどうかは微妙ですね。ただ、この研究では昼寝の習慣とアルツハイマー型認知症の発症に相関があることを示したもので、もしかしたら将来アルツハイマー型認知症を発症するような人は発症以前から昼寝をしてしまう、という解釈もありえます。しかし、研究結果を素直に受け入れると高齢者では昼寝をしない方がいいみたいで、その分我慢して夜早く寝床に入ることを心がけていただくのは将来に禍根を残さないと思います。



健康に害があるタバコ。時を経てさらに悪者に

睡眠に限らず、他のことでも健康にいいのか、悪いのかに関する情報は世の中にあふれています。興味深いことに昔は悪いことだと思われていたことがよくよく調べると実はいいことだったということもありますし、またその逆もあります。ですから、将来またその良し悪しが逆転する可能性もありそうです。

そこで、昔と言うのはいつのころですか?という質問もあるかと思います。時間を私が医師の卵からひよこになって研修を始めたころに戻します。私が卒業したのは昭和58年ですが、昭和という年号に若い世代の方々には違和感満載かもしれません。西暦で言うと1983年ですので、かれこれ40年も麻酔科医をしてきたことになります。

そのころですが、酒とタバコはいかなる理由でもダメということで麻酔科の術前診察では必ずアルコールとタバコについては確かめること、と指導を受けました。40年経った今、タバコは相変わらず健康に害があるとされていますし、その悪者ぶりは40年前より際立っています。”タバコを吸うと肺がんになる”とよく言われますが、実はこれは正確さに欠けます。

タバコを吸っている人が必ず肺がんになるのではありませんし、吸わなかったらならないというわけでもありません。正確に言うと肺がんになる確率が高くなる、ということです。この40年で一番目立ったことはタバコを吸う人はもちろん、自分では吸わないが、他人が吸っているタバコの煙を知らず知らずに吸ってしまう(これを”受動喫煙”と言います)だけでも健康に良くないとわかってきました。



多くの有害物質を含む副流煙、受動喫煙でさまざまな疾患のリスクがあがる

受動喫煙といっても実際に吸っているわけではないので、と軽視してしまいそうですが、決してなめてはいけません。いくつかの例をあげますと、夫が1日20本以上喫煙する場合の妻の肺がん死亡率は夫が非喫煙者の場合の1.9倍。父親が喫煙者の場合の幼児(3歳児)の気管支ぜんそくの発生率は3 %で家庭内に喫煙者がいない幼児では1.7 %ですので、2倍近い数字。さらに母親が喫煙者となると4.9 %、ほぼ3倍に跳ね上がります。さらに職場で受動喫煙があるとない場合の慢性閉塞性肺疾患の発生率が1.5倍、喫煙者と同居すると認知症の発生が30 %増加といった具合で決して軽視できる話ではないのです。

タバコを吸っている人が直接吸い込む煙を主流煙、タバコの火のついているところから立ちのぼる煙を副流煙といいますが、受動喫煙ではこの副流煙を吸い込んでしまうのですが、その副流煙が主流煙に比べて、はるかに多くの有害物質を含んでいるのです。有害物質の一例をあげますと、主流煙に比べてジエチルニトロソアミンは19~129倍、ホルムアルデヒド:6~121倍、アンモニア:46倍、一酸化炭素:4.7倍、タール:3.4倍、ニコチン:2.8倍等々というデータがあります。副流煙は空気でうすめられてから吸い込むとはいえ結構な数字ですので、その危害が無視できないこともご理解いただけると思います。



少量のお酒はむしろ心臓に良い

一方、もう一つの悪者のアルコールですが、タバコとは好対照でむしろいい点も指摘されています。アルコールは肝臓には良くないことは確かなのですが、この40年で変わったことは飲む量について研究が進んだことです。毎日のようにお酒を飲むとか酔っぱらうくらいたくさん飲むことはもちろんいいことはありませんが、少ない量であればむしろ心臓にいいというデータが出てきました。

そこで、少ない量ってどれくらい?という質問があると思いますが、私は缶ビール1本程度と答えるようにしています。最近になって、お酒の中でもとりわけ赤ワインが体にいいという話がよく言われるようになりました。赤ワインに含まれるポリフェノールという成分がいいそうで、それはもともとワインの元であるぶどうに豊富に含まれている成分です。それなら、わざわざワインを飲まなくても生のブドウジュースでもいいことになりますが、それでは楽しみがないですね。



ワインと飲み会と認知機能の関係

また、ごく最近ですが、日本から75歳以上の高齢者を対象とした研究でワイン(日本酒とかビールはダメです)と機会飲酒(日常的には飲まないが飲み会など機会があれば飲酒をすることを言います)が認知機能の指標と相関するというデータが示されました。
先ほどの昼寝の話と同様ですが、相関するということは2つの因子が何らかの関連性があるということです。いずれが卵で鶏か、という議論にはなるのですが、解釈はおおむね2つあります。

シンプルにワインおよび機会飲酒が認知機能の保持に貢献する、という解釈も可能ですが、一方、高齢者でお酒を飲みに行くような人はもともと認知機能の障害が少ないという意地悪な解釈もできます。研究は続くでしょうし、さらなる研究結果から「アルコールが認知症予防に効果あり」となれば、まさに酒は百薬の長といえるでしょう。でも、くれぐれも飲みすぎはだめですよ。



ブラックコーヒーで心血管疾患の発症を抑える

もう一つ、昔は悪者だったが今は見直されているものに「コーヒー」があります。
コーヒーの中にはカフェインという神経を興奮させる物質があるため、眠たいときに目がシャキッとするという良い側面があります。一方で交感神経を刺激し、心臓の動きを高め血圧をあげるし、脈拍をあげるため長期的には心臓によろしくない、と考えられていました。
しかし、最近は適量のコーヒーがむしろ心血管疾患の発症を抑えるという研究結果が出てきました。ここでも活躍するのはポリフェノールです。意外なことにワイン同様にコーヒーにもワインに匹敵するくらいのポリフェノールが含まれていることがわかったのです。そしてお酒同様に飲みすぎると、カフェインがありますので良くありません。
適量とはどれくらいがいいかと聞かれれば1日4杯程度と答えることにしています。ただし、あくまでコーヒーを飲むときはブラックです。砂糖を入れたりしたら元も子もありませんのでここは要注意です。



「細く長く続ける」を心がけて

また、いくらコーヒーがいいと言っても誤解があってはいけませんので、あえて言いますが、1週間か1か月くらいの短い歳月、コーヒーを飲んだからといって効果が得られるものではありません。少なくとも5年~10年というスパンが必要です。

10年くらい前だったか京都大学の偉い先生が、「トマトが体にいい(具体的には血液中の脂肪増加を抑える効果がある)」という研究発表をされ、それをなぜかマスコミが大々的に取りあげるということがありました。もともと、トマトは体にいいことは世界共通の認識なので、なぜマスコミがわざわざ取り上げたのか今でも?なんですが、その結果、スーパーから短期的にトマトジュースが消えるという事態に陥りました。

いくらいい食べ物でも短時間にたくさん食べてもあまり効果は得られません。短期間でいい効果を得たいなら食べ物では難しいですし、そこは薬に頼るしかありませんが、効果のいい薬には必ず副作用が伴います。食べ物のいいところは副作用がほとんどなく、いい効果が得られるところです。ただ、そのためには長期の摂取の習慣が重要です。



コーヒーで寿命が延びる?

もう一つコーヒーの話をしますが、コーヒーの効果として、心臓の脈拍が落ち着くことで寿命が延びる、という考え方があります。心拍数と寿命には相関があることは前々から指摘されています。安静時心拍数が高い動物ほど、寿命が短いというものです。その根拠として引き出される事例としてネズミ(ハツカネズミ;英語ではマウス、そうミッキーマウスのマウスです)は心拍数が500~600で寿命は2年ちょい、一方、ゾウは心拍数が30程度で寿命は100年弱と言われています。おおまかな計算ですが、哺乳類では心臓は約15億回打つと停止すると言われています(残念ながら科学的明確な根拠はありません)。でも、この説が本当だとすると日ごろから脈拍が増えることをするのは自殺行為ともいえるでしょう。イライラすること、怒鳴ること、脈拍が増えることはたくさんあります。ですから、長生きをしたければ脈拍が上がることはやめるがいいと言えます。



医学研究といえば何か神々しく、近寄りがたい響きがあるかもしれませんが、実は結構俗世間的なことをくそ真面目に検証しているものも少なくないです。

数年前でしたか、大阪の一番大きな癌専門病院である大阪国際がんセンターで笑うことが免疫力を高めるという仮説を検証すべく、吉本興業(株)の協力を得て、院内で寄席を開き、患者さんに笑っていただくことで癌からの生存率が改善するかどうか、という研究をしていました。結果はどうなったのか、私は知りませんが、素朴な疑問を科学的に検証する医学論文は結構あります。今後、機会があればこのコーナーで紹介していきたいと思います。


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